【77兆円の大計画は崩壊寸前!?】サウジアラビアの未来都市ネオム構想が直面する脱石油時代への絶望的な現実

エネルギー

砂漠の彼方に消えかけた壮大な夢。ムハンマド皇太子が描いた未来都市「ネオム」の物語は、いま大きな転機を迎えています。総額5000億ドル(約77兆円)という天文学的な資金を投じ、石油の王国サウジアラビアが「脱石油」へと舵を切るシンボルとなるはずだったこのプロジェクト。しかし今、その雄大なビジョンは砂の中に埋もれようとしているのです。資金不足、計画縮小、そして突然の経営陣交代——。石油王国の野望は実現できるのでしょうか。中東で静かに、しかし確実に進む脱炭素時代への苦悩の現実に迫ります。

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第一章、ネオム構想とは何か? サウジアラビアが描く砂漠の未来都市

紅い海が輝く北西部の砂漠地帯。ここにムハンマド・ビン・サルマン皇太子が描いた夢の都市「ネオム(NEOM)」が生まれようとしています。サウジ語で「新しい未来」を意味するこの名前のとおり、人類がこれまで経験したことのない革新的な未来都市の建設を目指しているのです。

2017年、サウジの経済改革「ビジョン2030」の目玉として発表されたネオムは、石油に依存した経済からの脱却と新産業の育成を象徴する取り組みでした。政府系ファンドPIF(パブリック・インベストメント・ファンド)が中心となり、およそ日本の国家予算に匹敵する5000億ドル(約77兆円)という巨額の投資が予定されていたのです。

1,THE LINEと超垂直都市の革命的構想

ネオムの中で最も人々の想像力を掻き立てたのが「THE LINE」と呼ばれる直線型の垂直都市です。長さ170キロメートル、幅わずか200メートル、高さ500メートル——このSF映画さながらの都市では、どこへ行くにも5分以内で移動できる「5分都市」が実現する予定でした。

鏡のように輝く外壁に覆われたTHE LINEは、完全に再生可能エネルギーで運営され、二酸化炭素排出量ゼロを目指します。自然光が内部まで届く設計で、革新的なモビリティシステムを備え、完成すれば900万人が暮らせる未来の都市となるはずでした。

「水平に広がるのではなく、垂直に都市を積み上げることで、従来の都市が必要とする土地の95%を自然に返すことができるのです」とネオムの公式サイトは説明しています。まさに都市設計の常識を覆す革命的な挑戦と言えるでしょう。

2,ネオムを構成する他の地域と開発計画

THE LINEだけではありません。ネオムには他にも魅力的な地域が計画されています。「OXAGON」は紅海に浮かぶ八角形の工業地帯。最先端の製造業と持続可能なエネルギー産業の拠点として構想されました。また「TROJENA」は、年間を通して気温が高いサウジの砂漠に、なんとスキーリゾートを含む山岳観光地を作り出すという驚きの計画です。

「SINDALAH」は2024年に開業予定の高級リゾート。ネオム構想の中で最も早く形になる地域として期待されています。スーパーヨットを持つ世界の富裕層をターゲットに、紅海のターコイズブルーの海と白い砂浜の美しさを堪能できる場所を目指しています。

「私たちは単なる建物を建てているのではありません。新しい生き方、新しい未来を創造しているのです」。かつてネオムのCEOはそう熱く語っていました。しかし、この夢のような計画は、いま厳しい現実に直面しているのです。

第二章、サウジビジョン2030と脱石油戦略の現実

長い間、サウジアラビアは「石油の王国」として世界経済の中心にありました。しかし、気候変動対策による脱炭素化の世界的な流れや、石油価格の不安定さを前に、ムハンマド皇太子は2016年、大胆な経済改革「ビジョン2030」を発表しました。石油依存からの脱却と経済の多角化を目指す、サウジ史上最大の転換点だったのです。

「1932年、この国が建国された時、サウジアラビアには石油はありませんでした。それでも我々の祖父は素晴らしい国を作り上げました。私たちは再び、石油なしでも繁栄できることを証明するのです」。ムハンマド皇太子は熱いメッセージを国民に送りました。

1,ビジョン2030の野心的目標と実現への課題

ビジョン2030では、GDPに占める石油部門の割合を現在の約40%から20%以下へと半減させる目標を掲げています。また、女性の労働参加率を22%から30%に引き上げるなど、社会改革も含めた包括的な計画となっています。

2024年5月の進捗報告書によれば、1,064件の取り組みのうち87%は予定通りか完了しているとのこと。しかし専門家からは「理想は高いが、実現のための具体策が不足している」との指摘も少なくありません。

脱石油への道のりには大きな障壁があります。数十年にわたって石油収入に頼ってきた国民の意識改革、非石油産業を担う人材の育成、そして何より、この大転換に必要な膨大な資金の確保です。高い理想と現実のギャップに、サウジは日々苦闘しているのです。

2,経済多角化の取り組みとグリーン水素への投資

石油依存からの脱却を目指すサウジが最も力を入れているのが、再生可能エネルギー事業です。特に注目しているのが「グリーン水素」の生産。年間を通して太陽が降り注ぎ、広大な砂漠を持つという地の利を活かし、太陽光や風力発電で水を電気分解して水素を製造する計画を進めています。

ネオム地域では、2026年に稼働予定の世界最大級のグリーン水素プラントが建設中です。電解槽出力2.2GW、年間水素生産量237キロトン、投資額は85億ドル(約1.3兆円)という壮大なプロジェクトです。

また、意外に思えるかもしれませんが、観光産業も経済多角化の大きな柱となっています。サウジ政府は2030年までに観光分野へ8000億ドル(約125.6兆円)もの投資を計画。2023年の外国人観光客数は2740万人と、すでに日本(2500万人)を上回る規模にまで成長しているのです。

第三章、中東全体に広がる脱炭素化と未来都市構想の現状

サウジだけではありません。中東の産油国は今、こぞって脱炭素戦略と経済多角化に向けて動いています。UAEやカタールなども同様の取り組みを加速させ、「石油の王国」から「持続可能なエネルギー先進国」への変身を図っているのです。

「中東地域には再生可能エネルギーの宝庫とも言える可能性があります。特にグリーン水素の生産コストは、この地域なら世界最安値を実現できるでしょう」と専門家は指摘します。実際、中東産油国はコスト競争力に優れており、グリーン水素の価格は2025年には2ドル/kgを下回ると予測されているのです。

1,サウジの野望「ネオム」が直面する資金不足と計画縮小

しかし、こうした野心的なビジョンも現実の壁の前には屈せざるを得ません。2024年4月、サウジ政府はついにネオム計画の大幅縮小を決断しました。特に注目のTHE LINEについては、当初の計画から大きく後退することとなったのです。

内部資料によれば、2030年までに完成するTHE LINEの区間はわずか2.4キロメートル。当初予定の170キロメートルのほんの一部です。さらに収容人口も、150万人から30万人未満へと大きく縮小される見通しとなりました。建設コストの想定以上の増大と国家財政の厳しい状況が、この計画縮小の背景にあるのです。

そして2024年11月には、6年間にわたってCEOを務めてきたナドミ・アル・ナスル氏が突如退任。関係者の話では、予算の膨張をめぐってPIFとの間で意見の対立があったとされています。すでに請負業者の中には労働者の解雇を始めた企業もあり、プロジェクトの行方に暗い影が落ちています。

2,UAE・カタールの戦略と中東のスマートシティ開発比較

一方で隣国UAEは「マスダール・シティ」という別のスマートシティ計画を着実に進めています。ネオムほどの規模ではありませんが、より現実的なアプローチで段階的に建設を進め、すでに一部は完成・運用されているのです。

UAEは当初、水素やクリーンエネルギーの輸出に力を入れる方針でしたが、最近では国内需要の創出に重点を移しています。国内消費と輸出の比率を67:33と設定し、自国産業の脱炭素化を優先的に進めているのです。

またカタールは公式な水素戦略をまだ発表していませんが、国営企業Qatar Energyを中心に、天然ガスから水素を製造し、CO2を回収するブルー・アンモニアプロジェクトを推進中です。中東各国はそれぞれの特徴を活かしながら、産油国としての強みを生かした独自の脱炭素戦略を模索しているのです。

まとめ、砂に埋もれるか、新たな繁栄か —— ネオム構想の行方

いかがでしたでしょうか。計画は縮小されつつあるものの、サウジ政府はネオム構想を完全に諦めたわけではありません。ムハンマド皇太子の威信をかけたプロジェクトであり、形を変えてでも実現させる意志は変わっていないようです。

「サウジアラビアの未来都市『NEOM』計画は1世代にわたる長期的な投資であり、今後外国からの投資が加速するでしょう」。ファリハ投資相のこの言葉からも、長い時間をかけてでもビジョンを実現しようとする決意が伝わってきます。

最大の課題は資金調達です。国内の財政状況や国際的な投資環境を踏まえ、より現実的な計画への修正が今後も続くでしょう。当初のバラ色の構想には及ばないかもしれませんが、部分的にでも革新的な都市が生まれる可能性はまだ残されています。

サウジアラビアだけでなく、中東全体が今、脱石油時代という大きな転換点に立っています。ネオム構想の成否は、単に一つのプロジェクトの問題ではなく、中東地域全体の将来を左右する重要な指標となるでしょう。石油の恩恵を享受してきた国々が、どのように新しいエネルギー時代に適応していくのか。その壮大な挑戦は、まだ始まったばかりなのです。

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